熱膨張率が低い素材をまとめて「低熱膨張材料」といいます。ここでは、低熱膨張金属とよく比較される材料を紹介します。
■タングステン
タングステンは融点が3410℃と高いため耐熱性に優れるほか、電気抵抗率の大きさ(5.4 × 10-8Ωm)や比重の大きさ(19.3g/cm3)が特徴です。さらに、熱膨張係数が4.3 × 10-6/℃と非常に低く、インバーが開発される前はタングステンも低熱膨張金属のひとつとして利用されていました。しかし、インバーと比較すると非常に高価なため、限定的な範囲で用いられる程度でした。一方、インバーは安価な上に電気伝導性や溶接性といった特性にも優れるため、幅広い用途で活用されています。
■モリブデン
モリブデンの熱膨張係数もタングステンと同程度に低く、4.9 × 10-6/℃です。高融点金属でもあるため高温環境下に強いのですが、低熱膨張金属としてはインバーなどに比べてコスト面で劣ります。
■純ニッケル
ニッケル含有率99%以上の金属を純ニッケルと呼びます。耐食性や強度、延性に優れるほか融点も高く、強磁性体です。ニッケルと鉄を適切な配分で合金にすることで、インバーやコバール、42アロイのような低熱膨張金属が得られます。しかし、純ニッケル自体の熱膨張係数はそれほど低くはありません。
■ファインセラミックス
非金属物質の中にも、セラミックのように膨張係数が低い材料があります。特に工業用に開発されたファインセラミックスは機能性が高く、窒化ケイ素(SiN)や炭化ケイ素(SiC)が代表的です。これらのファインセラミックスは硬度と耐熱性、耐薬品性に優れ、さらに軽量であるため、低熱膨張金属と異なる用途でも採用されています。逆に金属としての性質、たとえば電気伝導性やハンダ適性、弾性、溶接性などが求められる場合には、低熱膨張金属のほうが有用です。
■低熱膨張鋳鉄
低熱膨張金属であるインバーやコバールなどは加工が難しいため、加工性を向上させた新素材の研究も進められています。そのひとつが「低熱膨張鋳鉄」で、インバーに匹敵する熱膨張係数(2.0 × 10-6/℃以下)を有する鋳鉄材料も登場しています。大型の部品や複雑形状の部品のように、従来の低熱膨張金属では対応が難しかった用途への活用が期待されている金属素材です。
■SUS304
SUS304は鉄にニッケルとクロムを配合した、オーステナイト系ステンレスです。鉄とニッケルはインバーやスーパーインバーの主成分ですが、これらの合金と違ってSUS304は低熱膨張金属には含まれません。成分の配合割合が異なり、熱膨張係数がそれほど低くはないためです。SUS304は安価で扱いやすいことから、ステンレス鋼の中でも流通量が多く、幅広い分野で使用されています。
低熱膨張材料の比較 |
物質名 | 密度(g/cm3) | 熱膨張係数(10-6/℃) | 融点(℃) |
インバー | 8.0 | 2.0以下 | 1426 |
コバール | 8.35 | 4.6〜5.2 | 1450 |
42アロイ | 8.15 | 4.0〜4.7 | 1430 |
タングステン | 19.3 | 4.3 | 3410 |
モリブデン | 10.2 | 4.9 | 2625 |
純ニッケル(99.9%) | 8.9 | 13.3 | 1455 |
窒化ケイ素/SiN (ファインセラミックス) | 3.2 | 3〜3.5 | 1900 (昇華) |
炭化ケイ素/SiC (ファインセラミックス) | 3.1 | 4〜4.5 | 2700 (昇華) |
低熱膨張鋳鉄 | 各種鋳鉄材料によって異なる |
SUS304 | 7.93 | 16.3~17.3 | 1398~1453 |
※SUS304の熱膨張係数の値は、25~100℃の範囲